寄生虫屋が語るよもやま話・12
バケツの中で住血吸虫が泳いでいます!—寄生虫恐怖症
太田 伸生
1
1東京医科歯科大学大学院・国際環境寄生虫病学分野
pp.1606-1607
発行日 2016年12月15日
Published Date 2016/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542201060
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虫に関する妄想や異常感覚は精神疾患としばしば関係する.“虫が足もとを這い回る”というのはアルコール中毒に特徴的な愁訴であるが,“自分は寄生虫に感染している”という異常感覚も神経質な人にまれに現れるようである.私は精神科を専門としないが,職業柄,寄生虫に関する異常感覚の訴えの相談窓口となることはある.精神科領域では“寄生虫恐怖症(parasite phobia)”という疾患概念があることも勉強して知った.
相談は1本の電話で始まる.相談者はこれまでの私の経験では全員中年女性であった.ほぼ全員既婚者である.低く落ち沈んだ声で“寄生虫がいるのですがどうしたらよいでしょうか?”と相談が始まる.“どうしました?”と問うと,“雑巾掛けをしていると,バケツの水に住血吸虫がいて,それが爪の中にビビビと入ってきたんです”と,かなり具体的である.たいがいは寄生虫の種類も特定してくる.私たち寄生虫屋にとっては突拍子もない話であるし,初学者が対応した場合は吹き出しかねないストーリーなのであるが,電話の主は真剣であることはすぐにわかる.
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