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書評 ―見逃してはならない血液疾患―病理からみた44症例
吉野 正
1
1岡山大
pp.938
発行日 2014年8月15日
Published Date 2014/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542103992
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重要・高頻度の疾患を中心に診断過程を疑似体験できる書
血液疾患は種々の病態が鑑別にあがり,また分子病理学的にも多様で,全体像を深く知ることは容易ではない.WHO分類も版が増すほどに疾患概念が増加し,専門家といえども全ての領域を通暁することは困難なほどである.しかし,疾患病理発生上の分子基盤における知見は非常な勢いで増加し,その成果ともいうべき分子標的薬の開発は目覚ましい勢いで進んでいる.そのような現況により,血液疾患はかなりの深度で疾患概念を整理することが求められている.このたび上梓された『見逃してはならない血液疾患 病理からみた44症例』はわが国の骨髄病理をリードしている編集者の下で企画された,画期的な著書である.
具体的な疾患について,その病歴,検査データ,形態像から診断に至る過程を懇切丁寧に示している.同様の観点と意図により編纂された病理関係の著書は皆無ではないが,焦点を血液疾患に絞り,治療と予後,また,鑑別診断と類縁疾患について詳述したものは,評者の知る限りほかにはない.ある疾患については病態生理や染色体あるいは責任遺伝子異常,また分子標的薬についての作用機序などバラエティーに富んだ記述と豊富な図表が駆使されていて,ざっと眺めているだけでも得るところがあるほどである.教科書を編纂するときある種のルールを設けることにより整然とした書物となるが,本書はそれをあまり強制していない.血液疾患の多様性を思うとき,それは仕方のないことでもあり,そのようにしなかった編集者の思いが伝わってくるようである.
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