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はじめに
Multilocus sequence typing(MLST)は,ゲノム上に位置する複数個(通常7つ)のhouse-keeping geneの部分配列をもとにしてコンピューター上で型別する方法で,1998年以降グローバル分子疫学解析法の“gold standard”として定着しつつある1).その特徴は,①菌株の高い識別能力,②データ作製・解析の標準化の容易さ,③世界各地からの容易なアクセスと最新情報の共有にある.代表的な解析例には,黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus),肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae),インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae),ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)などがあり,さらに真核生物であるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)などでも確立されつつある.それぞれでクローンの関連解析(eBURST解析)が行われている.
Pulsed-field gel electrophoresis(PFGE)は1984年に開発され,その後広く疫学解析で用いられてきた代表的な標準法である.院内での流行解析では特に威力を発揮する.ゲノムの制限酵素切断パターンを比較する方法で,患者・感染者から同じ切断パターンの菌株が得られた場合には同じ菌株による流行であると判断し,一般に3つ以上の異なったバンドが得られた感染例では異なった菌株による同時多発例であると判断する.同一菌株による流行中ではあるが,ある菌株にゲノムの再編成(変異)が起こった場合には,当該菌株が著しく異なった切断パターンを与えることがある.
病原性遺伝子のPCR検査は,病型の推定に役立つ.特定の遺伝子と典型的な臨床症状の関連が確立している例には,志賀毒素遺伝子と腸管出血性大腸菌感染症,コレラ毒素遺伝子とコレラ,cagA遺伝子と消化性潰瘍などがある.一方で,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)による深部感染症(肺炎,骨髄炎など)のように,医療現場の要望に応えられない場合も少なくない.
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