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はじめに
日本の感染症医療は,欧米の感染症医療と比較すると,抗菌薬の投与に関して,大きな違いがある.日本では多くの抗菌薬の投与量は,欧米の投与量の1/2~1/5程度と低くなっている.いずれの投与量が適切であるかを判断するためには,臨床比較試験を行うことが望まれるが,日本では比較試験のデータは極めて少なく,適正な抗菌薬の投与量について判断することが困難である.そこで,近年,抗菌薬の臨床効果を薬物の体内動態(pharmacokinetics;PK)と薬効(pharmacodynamics;PD)で評価する手法が確立されつつある.この手法によれば,薬剤低感受性菌や薬剤耐性菌の多い医療関連感染症では,日本の抗菌薬の投与量が欧米に比して少ない傾向にあることが科学的にも明らかにされてきた1).
もう一つの問題点として,抗菌薬の感受性の評価方法の問題が存在する.従来から,日本で用いられてきた薬剤感受性の評価基準としてのブレイクポイントは,細菌検査室で汎用されている自動同定機器が米国製であることも関連して,米国のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)基準を用いて判定されている.CLSIの基準は,米国の投与量に基づいて決定されているため,日本の抗菌薬投与量での臨床効果が薬剤感受性試験の結果を反映しない可能性がある.
この問題を解決するためにはpharmacokinetics-pharmacodynamics(PK-PD)より導かれるブレイクポイントを参考に,抗菌薬の投与量を決定することが望ましい2,3).このためには,ブレイクポイントに基づく感受性成績(susceptible-immediate resistant;S-I-R)ではなく,最小発育阻止濃度(minimal inhibitory concentration;MIC)の測定が望ましい.しかし,現状では日本の臨床検査室でMIC値を測定している検査室は必ずしも多くないことも問題点の一つである.
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