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はじめに
ES細胞(embryonic stem cells)は,初期胚の内部細胞塊に由来する多能性幹細胞株であり,将来体のすべての細胞になれる多能性を維持したまま,未分化状態で半永久的に培養することができる.また,ES細胞は,理論上,すべての組織に分化することができる.さらに近年,マウス,ヒトの皮膚などの細胞に,たった4つ(ないし3つ)の遺伝子を導入するだけで,ES細胞と類似したiPS細胞(induced pluripotent stem cells:人工多能性幹細胞)を得られるようになった1).これらES細胞やiPS細胞を体外で目的の細胞に分化させることができれば,再生医療に大きく貢献できる.
Ⅰ型糖尿病は,インスリンを産生するβ細胞が失われる病気であり,現在,死者や肉親の膵臓の一部からβ細胞を取り出し,患者に移植する治療が行われているが,圧倒的なドナー不足が問題となっている.そこで,ES細胞(iPS細胞)からβ細胞を大量に作り出すことができれば,その治療に大いに役立つと期待される.
ES細胞由来の分化細胞を患者に移植する場合,拒絶反応が問題となるが,患者の組織からiPS細胞を作り,自身の体に移植できるようになれば,この問題が解消されるので,将来的には,iPS細胞を利用した再生医療が理想的である.
ES細胞(iPS細胞)からの分化誘導では,得られた分化細胞が成体と同等の機能を有することを目指している.そのためには,正常発生と同様の細胞系譜(幹細胞が種々な細胞に分化していく過程)に従って分化させることが重要である.
そこで本稿では,膵臓の正常発生様式に触れたうえで,ES細胞(iPS細胞)からの膵臓分化誘導研究について解説する.
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