シリーズ最新医学講座・Ⅱ iPS細胞・8
iPS細胞からの心血管細胞の分化誘導とその応用
山下 潤
1
Jun YAMASHITA
1
1京都大学再生医科学研究所幹細胞分化制御研究領域
キーワード:
心筋前駆細胞
,
動静脈リンパ管
,
サイクロスポリンA
Keyword:
心筋前駆細胞
,
動静脈リンパ管
,
サイクロスポリンA
pp.1097-1103
発行日 2009年9月15日
Published Date 2009/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102071
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はじめに
虚血性心疾患を中心とする心疾患および脳血管障害は日本における死因のそれぞれ第2位(10万対126)と3位(10万対102)を占め,両者を合わせると第1位の悪性新生物(癌)(10万対254)に肉薄する.一方,国民医療費では,虚血性心疾患と脳血管障害を合わせると悪性新生物を上回り(2兆5千億vs 2兆3千億円)(以上,厚生労働省「平成16年度国民医療費の概況」),心血管系疾患は,現在および未来にわたり日本の医療が取り組むべき最重要研究課題の一つと考えられる.
また,心筋症は原則的に心移植しか根治療法がなく,かつ日本における移植待機患者の9割を占める非常に重要な心再生医療のターゲットである.自国以外での臓器移植を原則禁止する方向のWHOの方針や日本における臓器移植法改正なども相俟って,幹細胞による心筋再生は医学的にも政治的にも重要性が増している.
近年の幹細胞生物学の発展を背景とした再生医療研究において,血管および心臓は最も急速に研究の進展が認められる臓器である.すなわち,様々な新しい心血管幹細胞・前駆細胞の発見や心血管分化機構の解析,さらには前駆細胞をヒトに用いた再生医療の試みまで,基礎研究から臨床応用に至る幅広い知見が蓄積されてきた.なかでも血管は,骨髄細胞や末梢血細胞の虚血組織への移植,という細胞移植治療がすでに臨床の場にも応用され成果を挙げており,近年の再生医療の発展において先駆的役割を果たしている.
本稿はそのなかで万能の幹細胞として期待されるES細胞および最近樹立された新しい多能性幹細胞,iPS細胞からの心血管細胞分化誘導とその応用に関する知見を中心に概説する.
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