シリーズ最新医学講座・Ⅱ iPS細胞・1
iPS細胞の樹立と今後の展望
小柳 三千代
1
,
山中 伸弥
1,2
Michiyo KOYANAGI
1
,
Shinya YAMANAKA
1,2
1京都大学物質-細胞統合システム拠点iPS細胞センター
2京都大学大再生医科学研究所再生誘導研究分野
キーワード:
iPS細胞
,
ES細胞
,
細胞移植
Keyword:
iPS細胞
,
ES細胞
,
細胞移植
pp.123-128
発行日 2009年1月15日
Published Date 2009/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101873
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はじめに
ヒトES(embryonic-stem)細胞の樹立が報告されたことにより,細胞移植治療へ向けての研究が世界中でさかんになった1).これは,ES細胞の高い自己複製能と多分化能,すなわち多能性幹細胞としての性質による.なぜなら,①多能性幹細胞を体外で必要なだけ増殖させ,②目的の細胞へ分化させ,③患者に移植する,ことが可能になれば,多くの患者を治療できると考えられているからである.しかしながら,ES細胞は①②を満たすが,③に関しては拒絶反応が起こる可能性があり,これを回避することが重要である.このために患者自身から採取した体細胞から,多能性幹細胞を作成することが望まれる.
これまで,体細胞から多能性幹細胞を作成する方法は,二つ報告されていた.一つは,体細胞から遺伝情報を持った核を採取し,未受精卵の核と入れ替えるという“核移植”であり2),もう一つは,体細胞とES細胞を“細胞融合”させてES細胞様の細胞を作成する方法3,4)である.しかしながら,これらは卵子提供や胚の使用,クローン個体作出の可能性といった倫理的な問題や,四倍体細胞からのES細胞由来の染色体の除去など技術的な問題がいまだ解決されていない(図1).
このようななか,当研究室では,胚や卵を使用せずにマウスの線維芽細胞から直接ES細胞様の性質を有する細胞を得る研究に着手した.
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