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はじめに
2006年のマウスiPS(induced pluripotent stem)細胞の作製成功を皮切りに,今,未曾有の幹細胞ブームが世界中を席巻している.iPS細胞は「万能細胞」とよばれ,まさに夢の細胞として世界中から大きな期待が寄せられている.しかしiPS細胞があればどんな再生医療も可能になるかといえば,決してそうではない.確かにiPS細胞は「多能性」をもつ細胞ではあるが,臨床的に「万能」ではない.iPS細胞から様々な組織細胞を誘導することは現時点でもかなりなところまで可能であるし,近い将来すべての組織で可能になるかもしれない.しかしこれが患者さんの治療に実際に役立つか,となると話は別である.iPS細胞から分化誘導した細胞や組織が,生体内で既存の組織・臓器と機能的に連携し必要とされる機能を発揮できるか,あるいは欠損した組織を修復・補完できるかどうか,そこには越えなくてはならない大きなハードルがいくつも存在する.
また,iPS細胞は体細胞から自由に作り出すことができるため倫理的な問題がなく免疫学的拒絶がおきない,疾患特異的な細胞を得ることが可能などの利点はあるが,一方でウイルスベクターや導入した遺伝子の安全性の問題などES(embryonic stem)細胞にはない問題点や臨床応用への障壁がある.これに対しES細胞には,遺伝子導入による危険性がないなどiPS細胞にはない利点がある.iPS細胞の性質はES細胞と本質的な違いはない.そろそろこのあたりでiPS細胞とES細胞の利点と欠点を冷静に見つめ直し,これらの細胞をどのように使い分けていくかも整理しておいたほうがよいだろう.
本稿は「iPS/ES細胞による血液疾患治療の可能性」と題しているが,上に書いたような理由からiPS細胞とES細胞の双方を含めて,現時点でどこまで研究が進み,将来的にどのような臨床応用が考えられるかを血液疾患を例にとって述べていきたい.
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