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人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)は,体細胞に特定の遺伝子を導入,発現させることにより,胚性幹細胞(embryonic stem cell;ES細胞)と同等の能力を持つようになった多能性幹細胞である1,2)。これらの多能性幹細胞は,高い増殖力があり,理論上あらゆる体細胞へ分化することが可能であるため,細胞移植治療のソースとして期待されている。iPS細胞はES細胞に比べ,① 患者自身の細胞から作り出すことができるため,拒絶反応が回避できる,② 受精卵を破壊しないため,倫理的な問題が少ない,といった利点があり,加齢黄斑変性や脊髄損傷など多くの難治性疾患に対するiPS細胞を用いた細胞移植治療研究が進展している。
骨格筋の領域では,筋ジストロフィーなどの難治性筋疾患に対し,根治療法の一つとしての細胞移植治療が期待されている。本誌で特集されている成体での骨格筋幹細胞であるサテライト細胞も,細胞移植治療において極めて有望な細胞源であるが,現段階では生体内で認められる幹細胞の再生寄与能力を維持したまま治療に足るだけの細胞量を確保する増殖・培養法が確立されていない。今のところサテライト細胞は培養によって筋芽細胞へと分化してしまい,再生能力は限られたものになってしまうため,そのままでは細胞移植治療に応用できない。一方,発生学的にサテライト細胞の起源となるような骨格筋前駆細胞を移植することで,生体内で正常なサテライト細胞へと分化させ,ホストの骨格筋に生着させる研究も進んでいる。この骨格筋前駆細胞を生み出す源として,ES/iPS細胞などの多能性幹細胞が注目され,生体内でのサテライト細胞の誘導に関していくつかの研究成果が報告されている。ES/iPS細胞由来の骨格筋前駆細胞が,移植された骨格筋の中でサテライト細胞となり,再生・増殖を繰り返すことができれば,少ない移植回数でも効果的に筋再生が可能になると考えられている。そのため難治性筋疾患に対する根治療法として,生体内でのサテライト細胞誘導研究は非常に注目を集める分野となっているため,本稿で概説する。
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