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はじめに
古典的カリクレイン-キニンシステム(kallikrein-kinin system,K-K系)には,酵素学的・生化学的に全く異なる血漿K-K系と組織K-K系の2種類がある.前者は血液の凝固や線溶系,炎症,補体活性化などに関与するが,後者は血管壁,腎臓,唾液腺,膵臓,腸管などに存在し,これら諸臓器・組織の機能調節に関与する.本系の生理活性物質であるキニンは血管平滑筋を弛緩させて血管拡張作用を示し,腎では尿細管において水・Na利尿作用を示す.したがって組織K-K系は血管壁と腎臓での作用を介して血圧調節,水・Na代謝に重要な役割を担っていると考えられ,この系の機能異常が高血圧の成因に関与している可能性がある.また,ヒトや動物実験ではレニン-アンジオテンシン系と密接に関連している成績も数多く報告され,最近では徐々にK-K系の遺伝子多型と高血圧の解析も進むなど,古くて新しい生理活性物質といえる.
さらに最近の分子生物学的研究やヒトゲノム研究から,ヒトカリクレインファミリーは常染色体19番長腕に存在し,様々なセリンプロテアーゼを作る遺伝子をコードしていることが明らかにされた.そして,これまで別の蛋白質や酵素をコードする遺伝子として報告・検討されてきたものが実は同一のものであるなど,命名や分類に混乱をきたしていたことから,古典的なカリクレイン(KLK1)を除いて,新たにカリクレイン関連ペプチダーゼ(kallikrein-related peptidase)として分類されることとなった1).このような新しい発見と系統立った整理により,再生医学,皮膚科学,神経学,歯科学,癌など,これまでそれぞれの分野で独自に検討されていたものがより広い視野で総合的に論議されるようになった.例えば,前立腺癌のマーカーとして頻用されているPSA(prostate-specific antigen:前立腺特異抗原)もカリクレイン関連ペプチダーゼの一つである.本稿では血圧調節や組織障害にかかわるK-K系について概説する.
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