- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
序
質量分析計(mass spectrometry;MS)は単一有機化合物の構造解析に広く応用され,化学構造に特有なイオンを利用した直接導入による微量定量にも利用されてきた.1950年代に分離能の高いガスクロマトグラフィー(gas chromatography;GC)とMSが連結したGC-MS法が開発され,揮発性の多成分混合試料を分析する石油化学分野で威力を発揮した.ステロイドホルモン(以下,ステロイド)研究において,Horningら1)がこれまで困難とされた生体試料中の個々のステロイドの分離・同定が一挙にできる新しいGC-MSの分析法を開拓した.その後,本法はステロイドのマッピングの作成および先天性代謝異常の診断2,3),さらにイムノアッセイ法4,5)の検定などに大きな役割を果たした.1990年代後半から液体クロマトグラフィー(liquid chromatography;LC)とMSを連結したLC-MSが開発されると,熱に不安定でGC-MSでは定量が困難だったコルチコイドや抱合体などの難揮発性化合物の定量も高感度で可能となった.LC-MSの特徴はGC-MSにおけるトリメチルシリル(trimethylsilyl;TMS)に代表される揮発性の誘導体に変換の必要がなく,感度もGC-MSと同等あるいはそれ以上であることなどが挙げられる.そのため現在LC-MSが微量定量法の主流となっている.
1980年代後半にMSを2台連結したタンデムMS装置(MS/MS)が開発され,その自動化の進歩と並行して,重水素(2H)および13Cなどの安定同位体の供給ならびに誘導体化試薬の開発なども,LC-MS法によるステロイド測定の進歩を後押ししている.臨床の現場におけるステロイドの定量は,その簡便性や経済性から依然としてイムノアッセイ法が主流であり,内分泌診断に大きな役割を果たしている.しかし,LC-MSを導入することで今まで困難であった乳幼児や小動物での少量の試料および生検組織中のステロイドの超微量定量に加えて,その多成分の一斉分析が可能となり新しい内分泌研究および疾病の検査に大きく道を拓きつつある.以下,LC-MSを用いたステロイド定量の現状をGC-MSのそれと比較して述べる.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.