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はじめに:何故,臨床検査領域に シグナル伝達が必要なのか
多くの疾患は細胞の機能異常に起因する.その機能異常はどのようなメカニズムで起こるのであろうか.1980年代から「細胞内のシグナルが正常に伝わっていないから病気が起こるのでないだろうか」という視点からの研究が爆発的に進められてきている.すなわち,細胞内シグナル伝達機構の研究は「細胞表面に届いたシグナルはどのようにして細胞内に伝わり,細胞の機能発現を制御しているのだろうか」という命題に対する解答への模索である.事実,シグナル伝達解析により,細胞の生存と死,細胞極性と運動,細胞周期などの分子病態が次々と解明され,個体発生,癌,免疫,神経など様々な疾患の原因が解明されてきた.
この20年間,細胞内に複雑に張り巡らされたネットワークをひもとき,疾患との関連を解明するシグナル伝達研究が分子生物学の潮流であった.この学問進歩は,疾患を分子の立場から解明するいわゆる「分子病態学」が臨床検査に必要不可欠なものとなってきた.臨床検査分野も,疾患の病態を蛋白レベルで検査する時代から,遺伝子レベルでの解析が付加される時代になったことは誰もが認めることであろう.したがって,これから臨床検査に携わる者は,この分野を無視することはできないと考える1).しかし,この分野は複雑で,シグナル分子の略語を理解するのさえうんざりするという方も結構多いのではと思われる.さらに,シグナル伝達機構の研究は日進月歩であり,1人の研究者がすべてをフォローすることは不可能である.「臨床検査」の新シリーズ「シグナル伝達」において,筆者がトップバッターとして「シグナル伝達の概要」を執筆するように仰せつかった.初学者の臨床検査技師を対象にシグナル伝達に関する基礎知識を得るために「わかりやすく」をモットーに心がけたつもりである.今後に引き継がれる各論の理解に役立てていただければ幸いである.
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