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1. はじめに
臓器移植には脳死体から臓器提供を受ける脳死臓器移植と健常者から臓器提供を受ける生体臓器移植の2つに大別される.臓器移植の歴史としては脳死体(死体)からの臓器移植のほうがはるかに古く1890年代に死体から摘出した角膜移植に始まり,腎移植がこれに続く1).肝移植に関しては1963年にStarzlらによる脳死体からの肝移植が世界初であり2),これ以降,欧米諸国が脳死肝移植プログラムを開始している.一方,脳死肝移植にくらべ生体肝移植の歴史は浅く,脳死ドナーの不足から1988年,ブラジルで4歳の胆道閉鎖症の患児に対して母親をドナーとした生体肝移植が世界第1例目である3).
こうした欧米諸国の歴史とは対照的に,わが国の肝臓移植の歴史は特異なものといえる(表1).わが国での最初の肝移植は1964年に千葉大学で行われた死体肝移植であり,1969年には2例目を行っているが,肝移植の普及には至らなかった.わが国の肝移植の本格的なスタートとなったのは1989年,島根医科大学で胆道閉鎖症の患児に対して父親をドナーとして行われた本邦第1例目の生体肝移植である4).当初,生体肝移植は脳死体からの肝移植までの緊急的手段との位置づけであったが,当時の日本では脳死に対する死生観の相違と過去の経緯から脳死臓器移植が容認されていなかったため,生体肝移植は急速に普及し現在では不可逆的な肝不全に対する治療法の一選択肢と位置づけられるようになった.わが国ではこれまで小児,成人を合わせ約2,400例に施行され,生体肝移植に関しては世界をリードする立場にあるといえる.一方,わが国の脳死臓器移植の歴史は浅く1997年,臓器移植法が施行されて以来,脳死肝移植はこれまで21例に施行されたに過ぎない.しかし,この脳死臓器移植の開始をきっかけにわが国の臓器移植に関する生命倫理問題への取り組みも活発になってきている.
本稿ではこうした臓器移植の倫理問題について,特に生体肝移植を中心に概観する.
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