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はじめに
プローブは辞書では「探針」とあり,すなわち,物理的特性を測定する針状部品という意味が示されている.しかし,近年の科学者の間においてはプローブとはもっと広い意味で「見えないものを見えるようにするためのモノ」を指す.われわれは「ケミカルプローブ」という言葉を「目的物質の検出を可能にする機能性化学物質」という意味で用いている.
例えば細胞内を観察する方法について考えてみる.電子顕微鏡を用いて,細胞を観察すれば,細胞表面の凹凸を詳細に見ることができる.しかし,電子顕微鏡写真をいくらよく見ても,その細胞表面に特定のレセプターがあるかどうかまでを知ることはできない.もし,細胞表面上のレセプターの有無を知りたければ,そのレセプターに特異的な抗体に蛍光分子を付したものを用いて細胞を染色し,これを蛍光顕微鏡で観察することにより,知ることができる.
ある物質を効率よく見るためには分析装置を選ぶことがまず重要である.分析装置は上記の例であれば,電子顕微鏡または蛍光顕微鏡である.さらに,その分析装置によって,目的のものだけを検出するためには,ケミカルプローブが必要となる場合が多い.上記の例であれば,蛍光プローブがケミカルプローブとして用いられている.分析装置とケミカルプローブを上手に組み合わせることによって,自分の見たい物質をクローズアップして,効率的に観察できるのである.
われわれの研究室では,医療やバイオ研究に携わる科学者が興味を持つ生体応答を一連のデバイスで検出するシステムを提唱しており,とりわけ,蛋白質,イオン,その他の低分子化合物を,1つの分析装置で効率よく測定する方法を模索している.そのための方法として,質量分析計を分析装置として用いることを提案している.質量分析計とは,物質の分子量を知るために用いられる装置であるが,感度ならびに分解能が高いことから,ケミカルプローブと組み合わせることによって,検出器という意味での分析装置としても有効に用いられることが期待される.
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