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現在診療に欠かせなくなっているX線CT,MRI,超音波のなかで,超音波検査の歴史は最も古いものである.もともと魚群探知機や金属探傷器として利用されていた超音波が,医療に役立つ検査として考えられるようになったのは戦後の1940年代末から1950年代初めであり,当時は脳のAモード表示,胆石のAモード表示について報告されている.その後,Bモード法の開発に伴い,心臓ではMモード法の導入,腹部ではcontact compound scannerが使用された.われわれにとってその後の大きな進歩となったものは1970年前半にあり,1971年にオランダのJ.C. Somer氏と日本の入江喬介氏が,同時期に別々の地で電子リニア型探触子を開発し,いまでは当たり前の技術であるリアルタイムでの画像表示が可能となった.一方,ドプラ法の進歩は1950年代後半の里村茂夫氏,仁村泰治氏らの取り組みが最初である.血管については同じ施設の金子仁郎氏らが脳血流の研究目的で頸動脈を対象に研究を行っている.その後,これらの技術は,1980年にわが国の滑川孝六氏によるカラードプラ法の発明へと続くことになる.臨床的に血管領域でいつ使われ始めたかは定かでない部分があるが,断層像については1970年代中ごろから,血管の狭窄性病変について超音波像と血管造影が比較されるようになっている.さらに,1984年にはintima media complex thickness測定が行われ,現在の隆盛へと続いている.
さて,当院での血管の超音波検査の様子を振り返ってみると,1980年代の血管の検査の主流はメカニカルセクタ式の走査法で,主に頸動脈を対象に検査が行われていた.これはそのころから多く検査されていた乳腺・甲状腺用の探触子をそのまま利用する形で行われたもので,甲状腺検査の応用的な意味合いであり,件数もそう多くはなかった.その後,カラードプラ法が可能な7.5MHzの電子リニア型探触子の出現により,血管内部の血流を目にすることができ,狭窄性病変の評価がいっそう容易となったことを覚えている.最近では,装置とアプリケーションの改良進歩により,その分解能が向上しいっそう画像がよくなってきている.一方,下肢の静脈の検査は動脈のそれに比べずっと少なく,電子リニア型探触子が登場した当時でもほとんど検査依頼がなった.これは,この時期にはわが国での深部静脈血栓症の発生自体が少なかったためと,この領域で超音波検査が有用であるとの認識がなかったためと考えている.ところが,ご存知のようにその後の時代の変化から,現在では,肺塞栓が疑われるもの,下肢の腫脹のあるものだけでなく,術前後,長期臥床の患者での検査依頼が増加し,本疾患で有用な検査として重宝されている.
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