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1. Loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法の開発の経緯1,2)
遺伝子検査技術開発への取り組みは,社内では1980年代中頃より始められていた.ラジオアイソトープ標識したDNAプローブを用いたハイブリダイゼーション法によるものである.1990年頃には,結核菌の遺伝子検査試薬の開発に一旦成功したが,そのころ,PCR法やNASBA法などの原理的には1分子の核酸も検出可能な遺伝子増幅法が相次いで開発され,培養不要で検出する時代に入ったため,単なるハイブリダイゼーション検出だけの時代は終わった.遺伝子検査には遺伝子増幅法が欠かせない技術であることから,社内でも増幅法自体の考案から研究が進められた.当グループでは,数えれば10種以上の増幅原理が考案されたが,いくつかは原理面の欠陥があり,いくつかは既に特許が存在していた.またいくつかは検討を行ったが,実用レベルには達しない程度のものであった.やはりPCRと肩を並べ,あるいは凌駕するような技術は無理ではないかと思われた.遺伝子検査関連で方法論以外の研究への方向転換も模索し始めていたが,しかし増幅法について考える習慣は続いており,何とかならないものかと思案は続けていた.PCRのように温度サイクルをさせずに増幅させるには,やはり鎖置換型合成酵素を使うことになるだろう.DNA合成反応が進めば二本鎖になってしまうが,でも反応を連続させるにはどうすればいいか.複数の酵素は使用したくない(条件設定が複雑になるので).考えの方向性は,これまでの数々の経験(研究そのものの成果が出たわけではないが,遺伝子増幅にとっての重要な知見が得られていた)により,かなり明確になってきていた.あるものを壊す反応ではなく,無いものを新たに作る反応系であること,一定温度での反応であること,従来の方法にないメリットがあること,反応系自体がシンプルであることなどである.
あるとき,机に向かい,紙に2本鎖状態のDNAを書いて考えていたところ,「あれ,くるっとDNAの3′末端をループを作って自身にハイブリダイズさせると,自己を鋳型とした合成が進むではないか」ということをあらためて認識した.でも,どうやってこのような構造にするのか,鋳型そのものに相補的な部分がないといけない.プライマーの5′末端にその相補部分をあらかじめくっつけておくといいのではないか? そうすると,合成反応が進んで戻ってきたときには,プライマーの部分の相補鎖も合成され,その末端が3′になって,自分自身にループを作ってアニールして自己を鋳型として合成が進む.そこで,センス鎖,アンチセンス鎖の両方のプライマーにその部分をつけて,また鎖置換型酵素を使用したときの反応について,シミュレートして紙に書き続けていったところ,うまい具合に後述するLAMP法の起点構造ができ,この起点構造はさらに進むと再び合成され,原理的に反応がうまく回転する(つまり,放っておけば勝手に複製反応が進行する)ことがわかり,図1のLAMP法の原理図を書き上げた.
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