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1.はじめに
遺伝子検査は,検体にごく少量しか含まれない遺伝子(核酸)を増幅し検出する方法であり,PCR(polymerase chain reaction)法1~3)に代表される遺伝子(核酸)増幅技術の発明によって,高感度,迅速な検体検査が可能となった.遺伝子検査は遺伝子増幅法が開発される以前にもクローニング技術を利用したハイブリダイゼーション法,シークエンシング法などによって行われていた(遺伝子解析).しかし,対象となる遺伝子そのものがごく微量であるため,研究室レベルの手法に止まり,手軽な検査とはなり得なかった.遺伝子検査が検査室において通常の検査として用いられるようになった背景にはいくつかの技術的進歩がある.例えば,遺伝子を100万倍にも増幅可能なPCR法の開発,蛍光,化学発光などの非放射性標識プローブによる検出方法の開発,ヒトをはじめとする検査対象の遺伝子データベースの充実である.近年,遺伝子検査(診断)の高感度,迅速な特長を生かした検査方法は,検査対象によっては従来の免疫反応,培養法に代わりスタンダードとなりつつある.遺伝子増幅法に関してはPCR法以後,今日に至るまで様々な増幅法が開発されており,それぞれの特長を生かした製品化がなされている.本稿では,PCR法をはじめとする臨床診断に応用されている遺伝子増幅法を中心に概説する.
PCR法以後の遺伝子増幅法は,大別するとDNAを初期鋳型にDNAポリメラーゼの鎖置換活性を利用した方法,RNAを初期鋳型にT7 RNAポリメラーゼのプロモーター配列をプライマーに付加し,RNAを増幅産物とする方法の2つである.装置の簡易化のために等温増幅を特長とするものが多い.そのほかにもDNAリガーゼ活性を利用した方法4),鋳型そのものではなくターゲットにプローブを結合させシグナルとして増幅させる方法5,6)も考案されている.
DNAポリメラーゼの鎖置換活性を利用する方法として,SDA法(strand displacement amplification)7), LAMP法(loop-mediated isothermal amplification)8),ICAN法(isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids)9)などがある.また,T7 RNAポリメラーゼを利用し,RNAを最終増幅産物とする増幅法として,NASBA法(nucleic acid sequence-based amplification)10),TMA法(transcription-mediated amplification)11),TRC法(transcription-reverse transcription concerted)12)などがある.いずれの方法も増幅サイクルの起点に至るまでの過程が工夫されており,使用するプライマー,酵素などの違いが各方法の特徴となっている.なお,上記増幅法のほとんどは診断薬企業などのメーカーで独自開発されている点は特筆すべきである.
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