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1. 薬物代謝酵素:チトクロームP450
経口投与され,消化管から吸収された薬剤は肝臓に運ばれ,主として肝臓に存在している薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)によって代謝を受ける.CYP分子は相同性の違いにより数十種類の分子種を有しており,一般に基質特異性は低いとされている.つまり1つのCYP分子種は多くの薬剤を代謝することができ,また,1つの薬剤は複数種のCYPによって代謝を受ける場合もあるわけである.とは言っても,投与される多くの薬剤はいずれかの分子種によって主として代謝されるメインルートを有している.臨床で投与される薬剤は肝臓でCYPによる代謝を受け消失される分が考慮され,投与量を多くすることで血中薬物濃度が適切に維持される.またCYPによる代謝産物自体が薬理活性を有する場合もあるので,代謝がすなわち薬理効果を下げるとも言えない.このように経口投与された薬物動態は個人のCYPの代謝能力の差異に良くも悪くも影響を受けることがわかってきた.
CYP分子種は総CYP蛋白中の40%をCYP3Aが占め,CYP2Cが25%,CYP1A2が18%の割合で分布している1).また臨床的に使用される薬剤の代謝に関わる分子種はCYP3Aが55%,CYP2D6が15%,CYP2Cが10%の順である2).CYPの表現型である酵素活性能はそれぞれのCYP遺伝子のsingle nucleotide polymorphism(SNP)によって大きく影響を受けるものがある.この影響は複数の分子種で代謝される薬剤より単一の分子種でのみ代謝を受ける薬剤において著明であり,個体間差に大きく関与する.したがってこのような薬剤の投与に際しては個々の薬物代謝能力に応じて適正投薬量を設定することが薬理効果のみならず,副作用防止としても重要な要素となる.しかし,遺伝子のSNPが必ずしも表現型に影響を及ぼすわけではなく,CYP3A4やCYP1A2などは遺伝子型で表現型を説明するには環境因子などによる活性への影響が大きくて適切ではない.実際に多型が活性に影響を及ぼすSNPは全体の1%以下とも言われている.ただし,CYP2D6やCYP2C19などは遺伝子型と表現型の関係が比較的直接的であるため,遺伝子型から酵素活性の予測がつきやすい.なかでもCYP2C19は遺伝子多型によってその活性を大きく変動させる分子種である.CYP2C19はジアゼパムやプロトンポンプ阻害剤(proton pump inhibitor;PPI)のオメプラゾール,ランソプラゾールなどの代謝に関わることが知られており,特にオメプラゾールに関する薬物動態についてはよく研究がなされている3,4).CYP2C19の遺伝的多型は日本人では低代謝能を示すpoor metabolizer(PM)が20%も存在しており5),欧米人の2~4%に比べ高頻度である6~9).正常活性を有するextensive metabolizer(EM)患者と比べると,PM患者は代謝薬剤の血漿薬物濃度曲線下面積(area under the curve;AUC)が12倍にも及ぶといわれる10).また日本人を含むアジア人系のCYP2C19の多型は2つのSNPsで表現型の説明ができる.その1つはexon5の変異であるCYP2C19m1(*2A)で,もう1つはexon2の変異でCYP2C19m2(*3)と呼ばれている.この2つの変異のalleleの組み合わせにより酵素活性型(phenotype)が決定され,CYP2C19の遺伝子多型の判定はほぼ100%可能となる.つまり,野生型(*1)のhomozygote*1/*1がEM,*1/*2A,*1/*3などのheterozygoteがintermediate metabolizer(IM:PMとEMの中間活性を示す),*2A/*2A,*2A/*3,*3/*3がPMに相当する.このことより,probeを投与し血中薬物濃度を測定してphenotypingをしなくても遺伝子型からphenotypeの推定が可能となる11).
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