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■はじめに
人口構造の変化は,当該地域の医療機関に機能の見直しを求める.しかし,2年ごとに繰り返される診療報酬改定に対応することが病院経営にとって重要であることから,個々の医療機関は中期的な展望が持ちにくいのが現状である.また,診療報酬の改定では,ボリュームの大きい都市部の議論が中心になりがちである.その結果,人口構造の変化がより進んでいる地方の場合,気が付いたときには自院の機能が地域で必要とされているものと大きく乖離してしまっていることがしばしば起こる.この際,それまで急性期を担ってきた病院の対応は2つに分かれる.閉院や診療所への転換により病院機能をやめてしまうか,あるいは新しい機能を再定義し,その整備を進めるかである.
筆者は高齢化が進む地域社会において,病院は住民の安心を支える社会的インフラであると考えている.従って,上記のような場合,まず考えるべきは地区診断と自施設のポジショニングによる,機能の再定義である.その結果としての,閉院や診療所への転換であるなら合理的であると考えるが,地域のニーズがある状況でそれに応えないという選択肢はでき得る限り避けるべきだろう.
しかし,機能転換は組織内に大きな軋轢を生むことが少なくない.こうした事態を避けるためには,データに基づきながら,院内の関係者が忌憚のない意見を交換し,納得して機能転換を進めることである.そして,この議論の際,中心に置くべきは,地域住民のニーズである.こうした難しい機能転換を見事にやり遂げ,結果として地域住民の安心を直接的に支えるだけでなく,他の医療機関や介護施設を支援する地域のハブ的な病院になったのが,道東勤医協釧路協立病院(以下,釧路協立病院)である.本稿では訪問調査で黒川聰則理事長と谷口和基事務長をインタビューした内容と,谷口氏の論文1)などを基に,同病院の機能転換の過程について紹介し,新しい地域医療構想の在り方について論考してみたい.なお,釧路医療圏の概況については,すでに紹介しているので,この地域の地区診断の詳細については前報を参照されたい2,3).
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