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■はじめに
近年,ヒューマンファクターズ(人間工学)の国際的権威であるHollnagelが提案したSafety-Ⅰ,Safety-Ⅱという二つの安全へのアプローチが注目されてきている.
Safety-Ⅰ,Safety-Ⅱは表1のように説明されている1).スタンスについていえば,Safety-Ⅰはトラブルや不都合なことが起こらないことを目指すが,Safety-Ⅱでは,より望ましい結果(アウトカム)が得られることを目指す.患者説明であれば,重要事項の伝達をし忘れないことがSafety-Ⅰの目標であるが,より良い納得を得るということがSafety-Ⅱの目標ということになる.
アプローチの仕方も異なり,前者は標準化を進めることで安全を求め,後者は,状況が変化する中で人の柔軟な(レジリエント:resilientな)行動により,安全注1を求める.
試験を考えてみれば分かりやすい.Safety-Ⅰであれば,出題者側が出題範囲を限定し,出題する問題は標準化し,正解を徹底的に教え込んでおけば,全員合格が達成できる.不合格者をゼロにすることが目標である.自動車運転免許試験はこのパターンかもしれない.
一方,入学試験はそうはいかない.応用問題が出題される.そして試験のまさにその場にならなければ問題内容は分からない.限られた合格枠に入るべく,自分の能力を総動員して解決を図るしかない.能力が十分にあれば,難度の高い応用問題も楽勝で解けるが,そうでなければ不合格である.つまり,安全は能力ということである.これがSafety-Ⅱのアプローチであり,その実現を図る対応のことをレジリエンスといっている.
医療ではどうだろうか.Safety-Ⅰ,Safety-Ⅱの双方が必要になるのではないだろうか.
医療機器の使用方法,会計手続きなどは,Safety-Ⅰである.正解があり,それ以外のことはヒューマンエラー(ミス)である.一方で,患者対応はどうだろう.患者の標準化はできないし,状態も時々刻々変化する.患者の状況,状態に適した対応をスタッフが講じなくては,よりよい患者満足は得られない.つまり,この場合,Safety-Ⅱが基本となる.
本稿では,Safety-Ⅰ,Safety-Ⅱの特徴についてさらに説明する.特にSafety-Ⅱについては,管理者はどのような点に注意する必要があるのか,そのマネジメントのポイントを説明する.
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