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■はじめに
地域包括ケアとは,住民が日常生活圏域(おおよそ30分で移動できる圏域)で,医療,介護,予防,生活そして住まいに関する基本的なサービスを受けられる仕組みである.2014年制定の医療介護総合確保推進法第二条ではそれを以下のように定義している.
「この法律において,『地域包括ケアシステム』とは,地域の実情に応じて,高齢者が,可能な限り,住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう,医療,介護,介護予防〈略〉,住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制をいう」1).
そして,近年ではその対象者を高齢者に限定したものではなく,全ての住民とした上で,「日常生活圏域を単位として,医療・介護・社会福祉・互助活動など何らかの支援を必要としている人々を含め,誰もが望むなら,住み慣れた地域の住みかにおいて,自らも主体的な地域生活の参加者として,尊厳を保ちつつ安心して暮らし続けられるための仕組み」2)と概念の一般化が図られている.
地域包括ケアシステムの概念が明確化された2009年の地域包括ケア研究会報告3)から14年の月日が経つが,まだその具体的な形をどう作るかについては模索が続いている.地域包括ケアシステムの議論を,当初からリードしてきた筒井孝子氏は,介護保険や予防的サービスを計画する自治体が積極的に関与し,規範的統合を実現することが必要であるとしている4).確かに高齢化の進む日本においては,介護保険制度が地域包括ケアの枠組みを規定する主要なものであり,それを計画する介護保険事業計画は重要なツールであると言える.したがって,地域包括ケアシステム構築のためには,各自治体の基本構想の中に,それが明確に位置付けられ,具体的なプログラムとして展開されていく必要がある.ただし,介護は他方で医療の支援を必要とする.このことは今回のCOVID-19の流行で明確になった.この医療に関して,民間医療機関が主体のわが国の制度の中では,市町村がそれをコントロールする強い権限を持たない.
日常生活圏域で医療,介護,予防,生活支援,住まいが総合的に保障されるためには,その基盤となる具体的サービスが相互の連携をもって提供されていなければならない.異なる制度下で,かつ異なる法人でそのようなサービスが提供されている状況で,ネットワーク化を進めることは必ずしも容易ではない.事業体が制度上営利であるか非営利であるかにかかわらず,地域で類似サービスを行っている組織間には,当然競争の原理が働くため,その調整を行うことは容易ではない.増大する複合ニーズに対応するためにはネットワークモデルよりは医療介護複合体が合理的であることを,介護保険制度発足前に二木立氏は予測した5).そして,現状は二木の予想通りの展開となっている.
本連載で繰り返して取り上げてきたように,筆者は,わが国で地域包括ケアシステムを具体化する一つの重要なモデルになるのは,病院を中心とした医療・介護複合体であると考えている.今回のCOVID-19の流行において,各地の高齢者施設でクラスターが発生したが,その対応に当たって,複合体組織は単独組織に比べてその強みを発揮した6).高齢社会において地域包括ケアシステムを構築するための,最も強い心理的ドライバーになるのは安心の保障であろう.本連載で紹介した事例も含めて,現在,いくつかの先進的な組織が,主に地方で複合体の形で地域包括ケアを具体化しつつある.今後,この動きが高齢者数の激増する都市部にも広がっていくことで,わが国の地域包括ケアシステムは急速にその形成が進むと筆者は予想している.このプロセスを整合的に行っていくことが地域医療構想調整会議の役割として重要になるだろう.
本稿では病院を中核とした医療・介護複合体が都市部において地域包括ケアを構築している先進事例の一つとして札幌市を拠点とする社会医療法人恵和会 西岡病院を取り上げ,地域包括ケアシステム実現のための条件について論考する.
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