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■はじめに
2020年はナイチンゲール生誕200年の記念の年であった.
ナイチンゲールが活躍した19世紀,衛生状態が悪い野戦病院で,彼女がまずは何をしたかであるが,一般的にはランプをともしながら,見回りをしている姿が印象的である.しかし,実はとても現実的に有用な対策を実行していたのだ.床の掃除をきちんとするように人を雇い,新しいリネンを取り寄せ,寝床の藁をきちんとくるみベッドにし,そして本国からわざわざ調理人を呼び寄せ病人の食事を作らせ,栄養状態の改善を図った.体の清潔を保つようにしながら,適切な薬やケアの提供を,教育訓練を受けた看護師に実践させたのである.当時,看護職は社会的に認められてもおらず,教育も体系づけられてはいなかった.
劣悪な状況の中で,傷病兵たちの死亡率は改善され,治療効果も上がった.感染予防に関しても,手洗いの励行を看護師が行った病棟の発熱者の減少は目を見張るものがあり,医師たちも納得せざるを得なかったという.
激務のせいで,クリミアの風土病に侵され,腎機能が落ちたこともあって,英国に帰ってからは自らが病床に伏しながら,看護教育や看護管理に手腕を発揮し,多くの人材を育てた.それらのことを成し遂げながら,彼女は遠い未来を見ていたのである.
家庭の健康を守るのは婦人であると説き「この人たちに衛生上の知識や,家族の健康管理ができるように教育して,病気の予防と,早めの手当てができれば人々の健康状態は保たれるでしょう,そして,病人を病院に集めるのではなく,人々の所に医療が届けられるようにして,一番過ごしやすい家で療養が出来れば理想ですね」と.「そうすれば,将来は病院や,施設は必要なくなるのではないか? それは100年先の2000年の世界のことね」と.看護の原点は,在宅ケアであり,看護を必要としている人に訪問して届けることだとし,そして,何よりも予防が大事だと説いたことに,本当に驚愕する注.
コロナ禍の中で,「病院に行くのは怖い」と受診控えが起こったり,在宅医療の現場でも「外からの訪問者を減らしたい」と,サービス控えが起こったりと,さまざまな影響が出ている.
一方で,「面会制限がある入院・入所は避けたい」と,在宅医療・看護を受けて最後を家で過ごす方々も見られた.本稿では,1992年から訪問看護の現場で活動し,現在は相談支援の場に身を置く看護職として,このような現状での病院の在宅への関わり方を患者側の視点で考えたい.
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