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■医療安全に対するニーズの変遷
医療界は1990年代から現在,そしてこれからの近未来にわたり非常に大きな変革を遂げると考えられている.医療安全におけるニーズの変化は2004年のWHOによる「患者安全」(Patient Safety)の提唱から始まり,「ヒューマンエラー」を前提とし,従来の訴訟回避のための「リスクマネジメント」と区別して,「セイフティマネジメント(安全管理)」の語が提唱されるようになった.時間的な対応も従来の事後対応から事前の予防,セイフティマネジメントが提案され,その後「質と安全」概念の統合が提唱されるようになった1).
本邦では医療訴訟が1990年頃より急速に増加したことから,リスクマネジメントの重要性が再認識され,加えて前述のセイフティマネジメントの必要性が提唱された.さらに医療費の増加と相まって,現場の限られた人的・金銭的・時間的資源の制約から,医療の質の低下が問題視されるようになり,「クオリティマネジメント」のニーズが高まった.本邦のような国民皆保険制度の下で,欧米において提唱されるこれらのマネジメントを全て医療者が同時に高品質に行うよう求められるようになったことが,一部の組織破綻につながり,医療崩壊といった言葉がささやかれるようになった一因ではなかろうか.いまや医療従事者の疲弊は医療界にとって大きな問題となっている.先に提唱された「患者安全」の提言は非常に重要でかつ大きな変革ではあったが,現状ではそこからさらに一歩進み,「医療安全は誰のためのものか」も再考する必要が生じ,本連載第7回で吉田2)が述べたように,持続可能でそこに参加する全ての人々が不平等でない医療を実現するためには「複数の医療者と患者,家族」のための円滑なコミュニケーションを持ったチーム医療の概念の重要性も提唱され始めている.このように,「医療安全」という文言一つにおいてもさまざまなニュアンスおよび時代によるニーズの変遷があることをご理解いただきたい.
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