味わいエッセー 出会い
出会い—その宿命的なもの
太田 怜
1
Satoshi OHTA
1
1日本アイ・ビー・エム(株)
pp.1232
発行日 1989年12月1日
Published Date 1989/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541209751
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恋愛の発端,ことに映画のそれは,大抵,男女の偶然の出会いで始まり,そのほとんどが,悲劇的な末路を遂げる.
ジュリアン・デュヴィヴィエの有名な映画「望郷」.パリを食いつめたやくざ者のペペは辺境アルジェリアの迷路カスバの中で安住の生活を送っている.しかし,パリへの望郷の念は,日々つのるばかりである.ある日,手入れにまぎれて,観光客の一人がペペの前にまぎれこんできた.溢れるばかりパリの匂いを持った女である.パリの有名な建物や地名をあげながら,一目で恋に落ちてゆく.このあたりの会話と目の動きが,映画ならではの表現である.そして,そのために,ペペは自分を愛する情婦も捨て,身の安全を保証してくれる迷路の砦さえも捨てて,危険な港をまっしぐらに目指してゆく.その機会を長年待っていた刑事に,予期したごとくいとも簡単に逮捕され,結局は手首を切って自らの命を断つ.最期にペペが「ギャビイ!」と絶叫する女との偶然の出会いが,ペペという男を滅ぼしたのである.
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