世界の波
ユーゴーの負つた宿命
末松 満
1
1朝日新聞企画部
pp.46-47
発行日 1954年3月10日
Published Date 1954/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200702
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「歴史は夜,女によつて作られる」--これは最近よく売れる或る本の広告文句だ.アクどいいやらしい言葉だと思つていたところ,それを地で行くような事件がヨーロツパに起つた.
問題の女というのは,ユーゴースラビアの参謀総長夫人ミレーナ・ウラヤコーヴァと呼ぶ24歳の美人である.第2次世界戰爭の最中,ナチス・ドイツ軍に全国を占領されたユーゴーではあつたが,首都ベルグラードの女学校で彼女は少女時代を送り,卒業,終戰,そして新しい時代の映画スターとして登場した。彼女主演の映画がベルグラードで封切られたとき,劇場の貴賓席に大統領チトー元帥と並んで,彼女から挨拶を受けたのは,参謀総長ダブチェヴィッチ將軍であつた.参謀総長といえば物々しいが,彼れは独身で美男,戰爭中チトーを助けてナチス軍に泡を吹かせた英雄的行動も買われ,ユーゴー国民,特に女性からは「あこがれ」の対象なのだが,一目ウラヤコヴァの麗姿をみてここに將軍と女優の戀が芽生えた.昨年夏めでたく結婚へと取り運び,ダニユーブ河畔の新居から時折り現われるお揃いの乗馬姿は,幸福そのもののように見受けられた.
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