特集 公害に挑む
企業都市の宿命を破る—戸畑区・北九州市の場合
林 えいだい
1
1前教育委員会
pp.284-286
発行日 1971年5月15日
Published Date 1971/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204257
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いまでこそ,水銀,カドミウム,シアン,シアノールなどの工場廃液によって,ヘドロの海と化した洞海湾は,昔は葦の生いしげる絶好の魚場であった.この寒村に,ひとたび日本はじめての官営八幡製鉄所が建設されるや,それに伴って関連企業が誘致され,またたく間に重工業地帯が誕生した.
土地の無料提供や,不当に安価な土地の買収,半強制的な労力提供などによる住民の不満はあったが,「鉄は国家なり」という大義名文のもとに国のためには文句をいうべらかずということで,住民の意志は完全に無視された.遠賀郡八幡村から八幡市へと発展していったが,八幡製鉄所内八幡市といわれるほど,すべてが八幡製鉄所の支配下であり,地方自治体ですらこの例外ではなかった.学校やその他の施設も急増する人口には追いつけず市の財政は窮乏にあえいだ.官営のため地方税を払わず,財源に困った八幡市は政府の補助金を嘆願した.この助成金増額の請願運動が唯一の市民運動であったことからも,都市形成の初期から企業都市の宿命をになっていたといえる.
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