定点観測 鹿児島県・野田町から
15年を振り返って(3)—病院経営について思う
松下 文雄
1
Fumio MATSUSHITA
1
1野田町立病院
pp.503
発行日 1987年6月1日
Published Date 1987/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541209084
- 有料閲覧
- 文献概要
当院に赴任するまで,病院経営についての関心はほとんどなかった.着任後もどうすれば患者が増えるかについての考えは全くなかった.と言うより,考える余裕がなかったというべきであろう.全科にわたる診療のために,ひたすら診療ひとすじで他を顧みる余裕がなく,毎日毎日が未知への挑戦ともいえるものであった.
かくして1年が経過し,4月初めに事務長から黒字決算の報告をうけた.2年目も初年度と同様,他を顧みる暇なく患者の診療に終始した.結果は前年に比し黒字は増加していた.この時点で,当院のような小規模な病院では,診療の責任者である医師が患者のために努力をすれば,職員もこれに応じて仕事をし,また患者にもその熱意が通じ,お世辞より何よりも誠意をもって診療に当たることが一番大切であることがわかった.赴任以来14年間,一度も赤字決算は出していない.しかし,黒字決算が医療全般から見て良い現象ばかりとは言えない.すなわち,多くの病人を治療しているということは,言い換えれば多くの病人をつくり出していることになるのではないかと自問自答している.病院は黒字でも,町財政で国保税の増加があれば住民の負担は重くなるばかりである.ここに早期発見を含めた予防医学の重要性が存在する.この予防医学の問題は町行政の取組み方が極めて重大であるが,いまだ町に健康センターの設立もなく,集団検診にも持続的な熱意がない現在では日暮れて道遠しの感を深くしている.
Copyright © 1987, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.