連載 変化する病気のすがたを読む・4
病気のすがたの考え方
倉科 周介
1
Shiusuke KURASHINA
1
1東京都臨床医学総合研究所診療方法論室
pp.1023-1027
発行日 1986年12月1日
Published Date 1986/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541208960
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1.原因と結果
現象としての病気は早い話が結果である.当然のことながら,結果にはそれをもたらす原因があるはずである.というわけで,昔から臨床医学では病気の原因探しが重要な仕事とされてきた.病因論(etiology)ともいわれるこの研究領域は,古くは病理学の一手販売みたいなところがあり,現在でもその雰囲気は濃厚に残っている.逆の見方をすれば,病理学が基礎医学の一部門にされていること自体,習慣とはいえ不思議な話なのだ.もっともこれは,基礎医学とは一体何かという大問題を整理した上でなければ議論すべき話題ではない.
さて,原因と結果の対応関係が割合に見やすい病気といえば,何といっても感染症の右に出るものはない.近代病因論が曲がりなりにも科学的な体裁を整えられたのは,取り扱う対象として感染症があり,研究手法として病原微生物学があったためである.脚気菌やインフルエンザ菌など,後から考えればばかばかしい早とちりも多かったものの,感染症の病因論はまずまずの成功を収めたといえるだろう.だが,問題はここから始まった.ほかの病気についても感染症と同じ発想で原因探しをやろうという風潮が半ば習慣になってしまったのである.さすがにどんな病気にも,それぞれ固有の病原微生物が存在するなどとは,今どき誰もいわないが,それに準ずる不逞の輩が病因として作用するから病気が起こる.
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