時評
「診断書」は必要か
小野 重五郎
Jugoro ONO
pp.351
発行日 1986年4月1日
Published Date 1986/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541208819
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日常の診療のなかで,しばしば診断書を求められる.これは臨床医の仕事のひとつになっており,法律的にも拒否はできない.だが,様式の決まった診断書用紙に向かうたびに気が重くなるのは筆者の怠惰のせいばかりではない.たかが一回の診察で病名をつけるという神の役割を演じる憂欝だけではなく,治療にかかわりのない第三者に向かって病名を提出することの,患者に対する後ろめたさがつきまとうのである.医療の守秘義務などは建前だけであって,肝腎のところで大穴があいているのではなかろうか.
カゼ症状で数日,会社を休む場合に,「カゼ症候群」と病名を書き込む程度のことには,それほどこだわり、を感じない.下痢症状を伴っていれば,「急性胃腸炎」という病名にかえておいても大差はあるまい.この場合の病名は,そのひとの欠勤には社会的に許容される理由があり,実際に体調が不良であることを示す符号に過ぎず,たいした意味はないと思うからである.これは,いわばアリバイ証明書であって,「診断書」という大仰な用語を必要としないし,この種の証明に病名を記入する形式などは不要であろう.
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