定点観測 高知県・西土佐村から
ゲートボールと「老」の道
宮原 伸二
1
Shinji MIYAHARA
1
1西土佐村国保江川崎診療所
pp.321
発行日 1985年4月1日
Published Date 1985/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541208560
- 有料閲覧
- 文献概要
日本中ゲートボールブームである.おとしよりたちは,少々雨が降ろうが風が吹こうが,農繁期だろうが,早朝から広場を占領して,カッチンカッチンと楽しんでいる.熱中しすぎて勝敗にこだわり,ゲームのなりゆきに興奮して障害事故まで起こしている.健康づくりになるといわれることもブームに拍車をかけたようだ.確かに,和やかなムードの中でゲームが出来れば,心の健康づくりにはなるだろうし,老人クラブの活動をもり上げたという点では拍手を送る.しかし,あの程度の運動量では,健康づくりのための運動とはとてもいえない.
なかにはゲートボールをすることが生きがいなんていうおとしよりも出てきた.ちょっと寂しい気がする.何のために年をとってきたのだろう.老人の「老」の字は,老化現象の老,老人ボケの老,老人ホームの老という意味ではないはずだ.1年1年,歳をとって,いろいろなことを経験していく,つまり一歩一歩,山登りをして,7〜8合目まで来たところであり,世の中がよく見渡せるということである.老人の老の字は老練の老の字なのである.ベテランということなのである.それゆえ,おとしよりは,今まで得てきたものを地域に還元する義務があり,そこに,おとしよりの存在価値があるといっても過言ではないと思う.
Copyright © 1985, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.