特集 老人医療の課題—退院後のケア
医療と福祉の接点と矛盾—特別養護老人ホーム,老人病院の実態
小笠原 祐次
1
1東京都老人総合研究所・社会学部
pp.110-114
発行日 1978年2月1日
Published Date 1978/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206441
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それはまだ生々しい記憶として残っている.昭和52年10月31日の各紙が「老母の入水"手伝う".バイクに乗せ川へ.娘も同時心中未遂.看病に疲れ……」と報じた事件であった.きわめて悲惨な「現代の楢山節考」として世情を賑わした.老母の病気(ガン),寝たきり,長男知恵遅れ,事業の失敗など重なる生活困難の中で発生した事件である.扶養意識や扶養耐性の問題はあるにしても,寝たきり老母や長男に対する在宅サービスや施設サービスが安心して利用できるように近くに配置されていたら,防ぐことができたかもしれない悲劇である.
社会と家族の急激な変化の中で,扶養機能が衰えてきている.しかも親族・地域援助網の乏しい独立した家族--それは孤立した家族と言ってもいい家族が増加している.扶養を必要とする老人,とりわけ寝たきり老人を抱えた家族や老齢夫婦,ひとりぐらし老人の場合は,こうした家族,社会状況のもとで,扶養,その最も原初的な扶養としての世話をめぐってさえ,きわめて大きな困難にとりまかれ,老人は生への絶望・死への願いに,家族は疲労,経済的負担,家庭生活の制約等からのあきらめ,家族関係の亀裂へと追いこまれている.
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