特集 総合診療
癌の総合診療
坪井 栄孝
1
1国立がんセンター放射線科
pp.35-38
発行日 1970年3月1日
Published Date 1970/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541203897
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癌診療の特殊性
胃癌と称し,肺癌とよぶ以上,一般に受ける印象は,それはあくまで胃の病気であり,肺の病気である.さらにまた,外科領域の疾患でありあるいは放射線科に入院すべき患者と決められかねない.しかし,このように臓器別疾患として癌が取り扱われることができるのは,あくまでも癌がその原発臓器にのみとどまっている時期であり,この時期には癌は局所疾患としての取り扱いが許される.そして,癌が局所疾患としての態度を取り続けている間は悪性腫瘍としてではなく,他の良性疾患と同じように処置されてさしつかえないのである.しかし癌には‘転移’という非常に悪質な性格があり,原発臓器にとどまらず全身に播種して,かつ播種先で無限に増殖していく.
このように原発臓器を逸脱した癌は,もはや局所のみに対する処置は無力に近く,この時期には悪性度の高い全身疾患としての本性をさらけだしてくるのである.その始まる時期は臓器により,または癌の性質により異なるが,局所疾患としてとどまっている期間はそう長くは期待できず,したがって実際の臨床ではむしろ癌を全身疾患として取り扱わねばならぬことのほうが圧倒的に多いのである.
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