病院の窓
地域におけるがん診療
坪井 栄孝
1
1慈山会医学研究所付属坪井病院
pp.273
発行日 1978年4月1日
Published Date 1978/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206492
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日本のがん対策は胃がん子宮がんに関する限りほぼ完全に成功している.衆知のごとく胃がん子宮がんは近年急速に死亡数が減少している.その要因は,集団検診の普及による早期がん発見治療例の増加と,食生活をはじめとする生活環境の改善によるものであるが,この急速な死亡数の減少の基盤にはわが国に胃がん子宮がんの症例が多かったということと,それに伴って胃がん子宮がんに関心を持ち診断治療の両面にレベルの高い技術を習得した医師が全国に均等に分布していたため,診療の地域格差がなかったということも見逃すわけにはいかない.このことは今後の地域におけるがん診療を考える上で非常に重要なことである.
現在のがん対策は大学,研究所および学会の研究成果を中心に計画され,その感覚のままで地域に導入されようとすることが多い.がんの基礎的研究や新しい技術,機器の開発は中央で行われるべきであろうが,早期がんの発見治療といったような実地臨床面の企画は地域の実状に即し,かつ地域の特色をいかした対策でなければ定着して存続することはできない.地域において企画され実行された実績が中央にもちよられ,全国的な視野で検討され,その情報が新しい技術や機器の開発を促す結果をもたらすといったような中央と地域との間にお互いにフィードバック機構が存在していなければならない.
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