特集 総合診療
大学病院における総合診療
高橋 晄正
1
1東京大学・物療内科
pp.29-34
発行日 1970年3月1日
Published Date 1970/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541203896
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人間が生物的存在,精神的存在,社会的存在という階層のしくみをもった有機体であるかぎり,病気になった人間の診療にあたっては,常にそれを総体的にとらえる視点がなければならない.わが国の医療がそれを喪失したのは,1人の病人をいつもそのような視点からとらえるべきホームドクター制度をもたないことにある.そのために,病人は町の風評にほん弄される‘流浪の民’となってしまい,自己判断によって特定の専門を標傍した医師を訪れる.そこではその‘専門’のワク内で最大限の診療が行なわれることになる.
だが,重い病気の病人を‘専門’から‘専門’へと受け渡しをするのは総合病院,特に大学病院においてであるが,そこにおいて各科のセクショナリズムを決定的なものとしているのは講座の独立性=密室性である。ヨーロッパ諸国において,大学病院や総合病院の診療科が,形式的にはわが国と同じように細分化されているにもかかわらず,それに基づく人間の疎外が起こらなかったのは,制度的には1人の病人は町のなかのホームドクターのもとに総合されていたことによるであろうが,より本質的には,中世の暗黒時代における神の権威に対して,それに続くルネッサンスの曙のなかで,人間性=自我の確立が行なわれたという意識革命の存在を忘れることはできないだろう.科学といえども,そこでは人間の幸福のために存在するものであり,科学の名において人間を傷つけることは最高度に恐れられなければならなかったのである.
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