ホスピタルトピックス
ストによる影響
鈴木 淳
1
1病院管理研究所
pp.94-95
発行日 1969年5月1日
Published Date 1969/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541203652
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いささか旧聞に属するが,1966年7月にカナダのケベックの聖シャルル精神病院で有史以来最初の非専門職員のストライキが行なわれた.病院当局はそのときをとらえて実験的な試みをし,その結果を近着のIn-formation Psychiatrique:Vol.44;No.8に報告している.ちなみに,本論文は,心労のためか,スト後6月で急逝した病院長に捧げられている.
給食,補給,営繕汽罐の現業部門からの約3週間にわたるストの通告に接した病院長は,在院患者の減少を企てた.精神・身体的状況が許すかぎり,できるだけ多くの患者を家庭や後方施設に帰すことにした.しかし,他方,いくつかの困難も予想されていた.一般社会の精神疾患に対する理解力と受容力の不足がまだまだ根強い.長期在院者と患者家族との疎縁はかなりすすみ,多くの家庭では患者を取り除いた精神的安定が保たれており,いまここで患者を急に家庭に返すことは家庭の平和を破ることになる.もし家庭がひきとったとしても,患者は‘異物’のように取り扱われ,それが病状にはねかえってくるのではなかろうか?患者の側にも問題があり,すでにゴフマンが指摘したように,在院患者は病院の習慣‘ホスピタリズム’に浸淫されているので,‘精神病者であることの安住さ’から脱けだすことができなく,無為,自閉,無関心の状態が続くであろう.そうなれば帰宅の効果は疑わしい.
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