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医療における患者の心理
金子 仁郎
1
Ziro Kaneko
1
1大阪大学医学部精神神経科
1Psychology in Medical Practice
pp.157-164
発行日 1961年3月1日
Published Date 1961/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541201769
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病気の社会的心理学的意義
人間はただ一人で生活しているのでなく,複雑な社会環境のなかで生活しているのである。その背後には家庭,職業,経済,地位などの結びつきがあり,多くの人間との対人関係のもとで生活している。患者といえどもこの枠外へはみ出すことはできない。社会の荒波のなかで傷つき,病み,血と涙を流しているのである。医療にたずさわる者は患者をこのような人間として理解し病める箇所を治すだけでなく,病める人間として治療しなければならない。すなわち患者とは病める人間であり,種々の身体障害だけでなく,病苦といわれるように疼痛や不安あるいは罪悪感のような心理的障害をもいだいている。さらに患者直接対人的にあるいは経済的につながる家族や社会人の悩みがあり,その患者の社会的地位に応じてその病気の及ぼす影響は大きい事を理解せねばならない。
一人の人間が病気になることはこのように大きい影響を及ぼすだけでなく,さらに病気そのものが社会的心理的環境殊に情緒の影響をうけ,その原因ともなりうることは精神身体医学の実証するところであり,患者の心理を充分に理解せずしては完全な医療を行ないえない。
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