連載 アーキテクチャー 第231回
長野県立こころの医療センター駒ヶ根
鈴木 慶治
1
1株式会社共同建築設計事務所
pp.256-261
発行日 2014年4月1日
Published Date 2014/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541102746
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■精神科病院建築のあり方を探る
長い間,精神科領域の施設設計に関わってきた.私がこの領域に関わり始めた頃,「精神(分裂)病」は完治しない病気という認識であり,その症状も身体疾病の場合と大きく異なるため,患者の立場に立ち,あるべき治療環境を考えることが難しかった.建築には様々な制約があり,この中で長期にわたって入院する患者の人権のために最低限の生活環境と病院職員の安全を確保することが求められた.しかし,対症療法としての薬物,対人療法が行われている中でも,「環境そのものが治療アイテム」となることは早くから認知されており,それは建築家が精神科病院という「建築」を設計するときの心の拠り所となっていた.多くの制約の中で,いかに豊かな環境の「病棟」を生み出していくかを課題として取り組んできた.
この原則は今も変わらない.そして今日,抗精神薬の発達と様々な治療法の開発が「精神病」を治る病気に変化させ,他の疾病と同様に早期診断治療の重要性が認識されるようになった.同時に情報過多で複雑な少子高齢化社会が新たな精神疾患を顕在化させ,否応無く精神科は身近な診療科となった.このような背景の中で,精神科病院は地域の中で大切な役割を持つコミュニティへと変化し,「治療アイテム」としての機能を様々な視点から追及することが求められるようになった.それは,同時に人間と社会,そして空間(建築)の関係をあらためて追及することであると理解し,私たちは精神科病院建築のあり方に取り組んでいる.
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