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わが国の国民は自らの生活水準に見合った医療を得ているのであろうか.日本の医療は1945 年の敗戦後,“貧困からの救済”という基本理念の下に,いつでも,どこでも,誰でもが同じ価格で同じ水準の医療を受けられるというアクセス,いわゆる医療の受けやすさを高めることを主眼として国民皆保険制度を達成し,社会保険医療の普及を図ってきた.その間,国家の経済力は一時的に飛躍的に高まり,その後,今日のようにデフレ経済が進行中である.国民生活自体も,画一的なものから多少の多様性をもち始めている.社会保険への新医療技術の収載は,手技,薬剤,検査など,時期的な遅れや手続きの煩雑さに対する問題点も多く指摘されてきた.現在は国家,地方財政の悪化も影響し,保険財政的に社会保険医療の今後の展望は不透明である.中央・地方政府の債券発行残高を含めれば,国民負担率は既に国民所得の50%を優に超えていると指摘されている.
今日の医療提供体制は,それを担う原価とそれに対する支払いに大きな乖離を見ている.また,国民が期待する医療と社会保険で給付される医療にも,内容として差が生じている.これらの差を埋めるための社会保険制度の仕組みが特定療養費制度である.療養環境,診察の選択,高度先進医療などが対象になっているが,前述の差を埋めきれてはいない.それに対し,自由診療は一切社会保険から離れ,衛生法規的にも内容に関する学術的検証は不要であり,有効性や安全性は全く関知されていないのが現状である.これらの間に存在するものが混合診療という考え方であり,保険と自費を併用し,かつ行政から利用者と医師の裁量を大幅に委ねられるものである.医療そのものの枠を拡大し,技術革新にも寄与し,社会経済全体に対しても貢献できる潜在力をもっているのではないか.
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