連載 病院管理フォーラム
■医事法・6
医療水準と医療慣行
植木 哲
1
1千葉大学法経学部法学科
pp.869-871
発行日 2007年10月1日
Published Date 2007/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101040
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●慣行と注意義務
今日の社会(近代社会)は,人に法的責任を課する前提として,加害者や債務者に帰責の根拠を必要とします.したがって,被告に民事責任を負わせるためには,加害者に過失(注意義務違反)のあること,債務者に責めに帰すべき事由(債務不履行)があることが必要です.
帰責の基準が刑罰法規や行政法規として事前に決められていれば明確ですが(道路交通法など),一般にこのような直接の規定は少ないのです.このため,過失や帰責事由をめぐっては当事者間で争われることになり,裁判所において法の解釈の問題として処理されることになります.
われわれは事故の防止や事務処理等において,常に新しいことを試みることは意外と少なく,多くは過去の経験や実績に基づき,一定の措置を慣行(習慣)とすることが多いと思います.こうした慣行や習慣は,注意義務違反や帰責事由とどのように関係するのでしょうか.
一般に,事故防止に役立つ設備・装置等が一般化していない場合,慣行に従って行われた行為は注意義務違反と評価されるのか,また,事務処理等において簡略化した措置が広く用いられている時,慣行通りに行ったことが事故防止の注意義務を怠ったことになるのかが争われます(山田卓生「注意義務と慣行」判例タイムズ441号32頁,1981年7月15日).今回はこれを医療慣行に即して議論することにしましょう.
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