連載 医療安全管理の実践・5
苦情は黄金―安全,良質,満足,そして信頼の鍵
長谷川 敏彦
1
1国立保健医療科学院政策科学部
pp.774-779
発行日 2003年9月1日
Published Date 2003/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541100687
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他の産業分野では苦情にどう対応するかが経営成功の鍵とさえなっている.その背景としては,世界で最も品質にうるさく,吟味する目を持った日本の消費者の声に答え,長引く不況の中で競争に勝ち抜くためには,経営の必須条件であり,企業活動の中核をなすものだからである.
そして近年,このような時代の流れを受けて,消費者保護,製造者責任の法的な整備がなされている.また,行政を中心に情報公開法が施行され,行政を中心に情報を開示することが法的に義務づけられつつある.しかし,医療サービス産業界ではこのような危機意識を共有してこなかったのではなかろうか.医療サービスはその情報が提供者側に偏って存在し,消費者の判断を妨げてきた.50のひらがな・カタカナ,数千の漢字の音訓,へたをするとアルファベットの大小文字を読みこなすことのできる国民が95%を超える,人類史上驚くべく高度に教育された知的な民族である日本人が,これから医療サービスを評価し発言しないわけがない.
苦情は黄金である.苦情を「処理する」という考えは間違っている.苦情は「ありがたく聞く」ものである.改善の要点をわざわざ伝えてくれているのだから.ほとんどの客は「黙って二度とこない」か「悪評判を外で撒き散らすか」だからである(図1).顧客の意見から学び,商品の質を改善するための貴重な情報が,苦情である.それを有効に利用する組織的なシステム作りが必要である1).
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