特集 医療と経済格差
医療における格差拡大のメカニズムとその政策対応
池上 直己
1
1慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室
pp.619-623
発行日 2006年8月1日
Published Date 2006/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541100347
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これまで医療において,「どこでも,だれでも,いつでも」医療を受けることができるように,地域や所得によるアクセスの格差を解消することが医療政策の目標となっていた.しかしながら,こうした目標はソ連の崩壊と経済のグローバル化に伴って,市場競争で成功した者に対して応分の報酬を与えるべきであるとする価値観の浸透を受けて,一部から変化が求められている.その結果,これまで公平性を確保するための諸法規を見直し,医療においても格差を是認し,患者負担を増やすと同時に,支払い能力のある者がハイグレードの医療を受けられるように改める動きが活発化している.本稿では,まず社会における格差の広がりと健康の格差の関係を展望した後,医療における格差発生のメカニズムとその対応について分析し,最後に日本の医療制度の課題を整理する.
■社会の格差と健康の格差
1.健康格差の要因
医療の目的は,治療による健康の回復にあるが,医療が国民の健康の維持・向上にどこまで貢献しているかは必ずしも明らかではない.発展途上国では,上下水道の整備,栄養状態の改善,女性の地位の向上等が医療よりも大きな要素である.また,先進国においては一人当たりの医療費が一定の水準を越えると,平均余命等の健康指標は,医療費ではなく,所得格差の程度と関係している1).
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