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医療政策学
池上 直己
1
1慶応義塾大学医学部病院管理学教室
pp.336
発行日 1989年4月1日
Published Date 1989/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922239
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従来,医療分野における意志決定は行政のマクロレベルにおいても,あるいは病院等のミクロレベルにおいても,図に示すような受け身のサイクルでなされてきた.すなわち,意志決定を行なう際の基本的な考え方である政策理念は一応提示されているが,実際には機能しない観念的な存在であった.組織の第一の目的は内部の均衡状態を保持することであり,変化は原則的にこの均衡状態を保った直線的方向にのみ可能であった.そして,技術革新や疾病構造等の外的要因,あるいは人員交代や施設の老朽化等の内的要因によって均衡が破れる問題が発生した場合には,組織の主要な構成員の力関係や,過去の慣例に従って場当たり的な解決が図られてきた.
以上のような方式では,どのような根拠と経緯で,いかなる意志決定がなされたかは当事者以外には不明であり,むしろブラックボックスの状態にとどめることのほうがトップにとって好都合である.受け身のサイクルは決定を行なう当事者の権威が保たれているために組織内外の服従が容易に得られ,それと同時に環境の変化が少ないために意志決定の必要な問題があまり発生しない時に成立する.このような状況は疾病構造の中心が感染症にあり,解決方法が比較的単純で,医療関係者の権威が無条件に保たれている時代にみられた.
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