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今までは,「患者さんの期待を超える医療の実践を目指して」と題して海外での取り組みを主に紹介してきました.これからは,日本での経験を二つほど紹介したいと思います.
■青戸病院医療事故と再建への思い
2002年11月8日,慈恵医大附属青戸病院において,前立腺癌のために腹腔鏡下前立腺摘出術を受けられた60歳の男性患者様が,術中出血性ショックとなり,意識を回復されることなく同年12月8日に死亡されるという医療事故が起こりました.翌年9月末,手術を担当した医師3人が業務上過失致死容疑で逮捕されました.筆者も含め多くの慈恵医大内医療スタッフは報道により医療事故の事実を知りました.スタッフのほとんどは最高の医療を提供しようと日夜努力をしていたため,報道を目にした際のショックは大きかったと思います.筆者自身も病院に来る足が重かったですし,病院内も騒然としていたことを記憶しています.ただ,医師の中でも温度差があり,内科系に比べて外科系の方が深刻でした.何故ならこの医療事故が「従来の患者取り違え」,「薬剤取り違え」といったものと性質を異にしていたからです.また,医師,看護師層から大量の離職者が出るという噂も飛び交っていました.そのため,筆者自身は職種の壁を越えた,討論の場が必要であると感じておりました.
筆者は報道1週間後,ワシントン DC で開催される会議に出席するため飛行機に乗り込んでいました.長いフライトの間,成田空港で買ったゴーン社長の日産再建に関する裏話を記述した単行本を読みふけることができました.カルロス・ゴーン社長が日産を再建した話は有名です.その際,他職種からなるチームを編成させ,社内の問題点の徹底的な洗い出しを行いました.この手法をビジネスの世界では “Cross Functional Teams” と呼ぶようで,筆者はこの手法が「慈恵の現状を少しでも良くするために役立つのではないだろうか?」という思いで帰国したのです.
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