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良い医療を実現したい.同時に,もう少しゆとりある医療現場にしたい.すべての病院の声である.良い医療とはすべての個々の患者さんが必要な医療を適切に得られることである.必要な医療は患者さん自身が自分の健康に責任を持ち,積極的に医療に参加し,それを医療者が誠実に受け止め,科学的,専門的に支援しながら見いだしていくものである.適切に得るということは,まず,一方的に与えることではない.そして,安全な医療であり,納得し満足できる医療であり,さらに,社会が許容できる医療でなければならない.医療現場は,特に急性期の医療を担う医療機関は日常的に人員の不足に悩み続けている.このことは既に広く知られていることだが,わが国の医療政策の貧困さと,利益を最優先するような一部の経営者の姿勢による結果でもある.諸外国に比べわが国の病院の制度で定められる標準人員は極端に少なく,それを必要に応じて充足しようとしても医療費抑制の方針の下に経営の健全性が損なわれることは明らかである.一部の病院では経営収支のうえで利益を優先することから,あえて人員を確保せず業務の現場で職員にのみしわ寄せされていることもないわけではない.
今日,9,000を超える病院が存在し,病院病床は未だに160万床を超えている.1985年の医療法改正により地域医療計画が導入されたが,結果として,その当時の既存の病院数,病床数が認められたことになっただけであり,科学的根拠に基づいた標準化はなされず,また,地域の特性に応じた医療の再編成もなされないで今日に至っている.医療の量的確保から質の向上へ関心が移り,最近では医療の安全性が最も注目されている.また,20数種類に及ぶ病院開設主体の中で国・公立病院は開設主体そのものと同時に運営も民営化されつつある.そのような悠長な変化の中でも多少なりとも医師数,看護師数,セラピスト数等の人員は漸増した.地域医療において病院への受療は増加し,医療費に占める病院医療費の比重も増加し続けている.
ここまで述べてきたように,病院の社会的存在は日々重みを増していることは事実である.すなわち,病院の声は政策に全く反映されていないわけではない.しかし,冒頭に述べたように多くの病院が期待する良い医療,ゆとりある現場の実現からは程遠い医療環境であることも事実である.なぜ病院の声が医療政策にそれほど反映されていないのであろうか.
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