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Ⅰ.初めに
1960年代後半は,我が国においてコンピューター導入の旋風が吹き荒れた時期であった.コンピューターがあれば何でもでき,無ければ何もできない,そんな時代が遠からずやってくる.その波に乗り遅れれば時代の落後者になってしまう.そんな強迫観念にも似た焦(あせ)りから逃げ出すために,少しでも長い時間人に接し,しかも病める人の杖になれる仕事を,と考えて電子工学の志半ばにして理学療法の道を選んだ.そんな筆者が生理学と出会ったのは,理学療法学部の学生として,国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院に在籍して間も無いころであった.
「生理学とは,医学全般にわたって必要な基礎であり,生体の機能を解析する基本的な学問の分野である.また,機能を解析するに当たっては,付加条件として,刺激を加えるか,破壊をする.この二種類の方法で,測定している現象が増強されるか,減少するか,変わらないかの六通りの組み合わせを観測する.方法論としてこれほど単純化された学問は無い.」これは筆者の終生の師である石川友衛先生が,講義の中で折にふれて口にされた言葉である.理学療法を学んでいる学生として,治療法のみが優先し,生体の機能を客観的に評価し,治療の効果を判定するいかなる手段ももたないこの分野にいささかの疑問を抱き始めた者にとって,衝撃的な言葉として胸に深く突き刺さった.以来,現在に至るまでの20年間,理学療法分野における生理学的背景を対象にした研究に凡才を注いできた筆者には,生理学と理学療法の接点とは有って無きがごときテーマであると思われる.
広汎(はん)な理学療法の分野にあって,その理論的背景に迫る研究方法はたくさんある.然るに,一人で追うことのできる研究はごく限られた部分でしかない.したがって,筆者は,自身が理学療法を理解し,その過程で関連分野の人たちに学問として認めてもらえるための手段として生理学を選択したまでであるということを御理解いただきたい.
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