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はじめに
精神科領域では,実際のところ,QOLという用語はまだほとんど使われていない.昨年来,二,三の会合で話題にしてみたが,中部総合精神衛生センター(旧世田谷リハビリテーションセンターの発展したもの.以下,当センターと略す)以外では,反響らしいものもなかった.しかし,精神障害者のリハビリテーション(以下,リハと略す)の将来を展望しようとすれば,いずれ誰でも,QOLについて考えざるをえなくなるのではなかろうか.いや,考え方のうえでは,すでに一歩踏みこみつつあるといってよい.本稿は,いわばその緒論であると考えて頂きたい.
精神科リハは,その考え方においても,精神障害者をとりまく環境においても,この20年間1)ではもちろんのこと,最近10年間でも大きく変ってきている.
かつては精神病院とその内部のものでしかなかったリハの場は,今日では公私さまざまな形で地域社会の中に広げられつつある.例えば,まだ数は少ないが病院外に作られたデイケアセンタ一,多分200カ所を越えると思われる病院のデイケア,全国の保健所の60%近くで手がけられているデイケア,民間主導の共同住居,主として精神障害者家族会の手になる共同作業所,各種の施設や団体に支えられた精神障害者自身の回復者クラブなどの活動が,全国的に繰り広げられている.(図1).
一方,10年前には普遍的であった「就労自立のみが真の自立」という考え方も,経験を重ねるうちに修正3,4)されつつある.たとえその障害のために就労できず,経済的に自立していなくても,彼らなりの生き方,それぞれの社会参加の仕方があってよいのではないか,という考え方が,精神科医療関係者の間にも浸透しはじめているのである.精神障害者についても,目指すところの自立の内容が変化してきているといってよい.
残念ながら,わが国の精神衛生事情の大勢は,33万床の精神病床の半数以上が長期在院患者によって占められている事実に示されるように,QOLを考える地点から遙か遠く隔たったところにある.在宅患者の大多数もまた,世間の日を避けてひっそりと暮らしているのが実情である.
こういった状況の変革のためにも,精神病者の治療・看護や精神障害者のリハに携わるすべての人々に,QOLを考える必要があるといえるかもしれない.
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