The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 19, Issue 2
(February 1985)
Japanese
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Ⅰ.はじめに
老年期には若年期におこる神経症,欝病,妄想状態などいわゆる機能性精神疾患のほとんどが出現するが,痴呆は老年期に見られる最も特徴的であり重要な精神症状のひとつである.痴呆は,老年痴呆やHuntington舞踏病などの脳変性疾患,脳腫瘍などの頭蓋内占拠性疾患,外傷,進行麻痺などの炎症,脳血管性痴呆などの脳血管障害,てんかん,代謝障害粘液水腫などの内分泌障害,アルコール性痴呆などの中毒性障害,一酸化炭素中毒後遺症として見られる痴呆などの酸素欠乏性疾患,あるいはビタミン欠乏性疾患などさまざまな疾患に伴って見られる.
このように痴呆の原因疾患にはさまざまなものがあるが,老年期に痴呆を示す疾患は老年痴呆と脳血管性痴呆によって代表される老年期特有の慢性脳器質性精神障害,つまり主に老年期に脳の老化過程に伴って出現してくる痴呆性精神疾患が大部分を占める.近年のわが国の急速な人口の高齢化を背景とするこれらの痴呆性精神疾患の増加が深刻な社会問題となってきている.長谷川ら1)によれば,65歳以上の老人の4.8%にみられ,その有病率は加齢に伴って急速に増加している.しかし,老年痴呆あるいは脳血管性痴呆のいずれについても痴呆の原因となる発症機序は現在なお不明であり,有効な治療方法も今のところ見いだされていない.このような状況において数多くの課題が今後解決されねばならないが,老年期に見られる痴呆性疾患の臨床的特徴を的確に把握することは老年期における精神医療を行ううえで,また社会的対策を進めてゆくうえで最も基本的でありかつ重要な点であるといえよう.以下,本稿では老年期にみる精神症状としての痴呆の特徴,状態像としての痴呆およびその経過に影響を及ぼす要因,老年期にしばしば見られる,痴呆と鑑別を要する状態,代表的痴呆性疾患について述べる.
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