巻頭言
激増する老年期痴呆をめぐって
宮坂 松衛
1
1獨協医科大学精神神経科
pp.450-451
発行日 1989年5月15日
Published Date 1989/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204700
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身近の同僚が家族と共に,年老いた親の介護に大変苦労しているのを見聞きすることが,最近とみに増えて来ている。私自身も3年ほど前,年老いた母を88歳であの世に送ったが,その前3年ほどは病院のベッドにねたきりの母を介護するのに,毎夜の附添いを含めて一家をあげて苦労をした思いがある。私の母は全く童女のようになって静かにねたきりであったので,まだまだ助かったが,徘徊・不穏など問題行動が加わるとご家族の苦労は大変なものと身に泌みて見聞きしている。老年痴呆の問題は,私自身の将来をも含めて,とても他人ごとには思われない。
昨年の敬老の日(9月15日)の新聞発表と,最近の「厚生白書」や「国民生活の動向」によれば,日本の現在の「老人人口」(65歳以上)は,1,377万人であり,総人口の11.2%に当たる(そのうち85歳以上が101万人)。一昨年同時期が1,331万人,10.9%であったので,この1年間に47万人の増加をみ,またその前の1年間には46万人の増加をみている。この増加数は,実に,中型規模の県庁所在都市の人口に近く(例えば宇都宮市は約40万人),こうした都市の大きさに当たるものが老人によって毎年1つずつ増えて行くということは,考えてみれば誠に恐るべき現象と感じられる。またこの47万人の増加は,総人口の増加の89%に当たり,支えられるべき老人が支えるべき若年成人に比べて圧倒的に増えて行くことは,社会経済的にも大変な問題と考えられている。
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