The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 17, Issue 2
(February 1983)
Japanese
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Ⅰ.はじめに
痛覚の話に入る前に感覚全般について総括的に考えて見る.動物は体の外部環境と体内の変化に対応した反応を示す.これらの変化が感覚器で刺激として受け取られ,その感覚器に分布している神経の興奮を引き起こす.この興奮は中枢神経系へ伝えられ,情報処理が行われ,適切な反応を示すために中枢神経系から末梢神経系を介して奏効器(横紋筋,平滑筋,心筋,腺)へ命令が伝達される.中枢神経系内での情報処理の結果が意識される場合も意識されない場合もある.体内で情報な伝える点では内分泌系も神経系と同じ機能を持つが,ここでは触れない.
外部環境に対する感覚には2種類あり,①体表から離れた場所の変化を捕える感覚には視覚,聴覚,嗅覚,温覚,②皮膚などに直接加えられた変化に対して触覚,圧覚,痛覚がある.内部環境に対する感覚も2種類あり,③内臓以外の身体,すなわち頭部,四肢,体壁の筋や関節の運動変化に対して深部感覚あるいは固有覚,姿勢や頭部の動きに対して平衡感覚,④内臓の変化に対して味覚,満腹,空腹,内臓痛等の感覚がある.以上のうち,①,②,③を体性感覚,④を臓性感覚と云う.また視覚,嗅覚,味覚,聴覚,平衡覚を特殊感覚(特殊知覚),それ以外の感覚を一般感覚(一般知覚)と言う.したがって本章の痛みは②の一般体性知覚と④の一般臓性知覚に含まれる.このような各種の情報は動物が餌な求めて個体を維持し,外敵から逃がれ,仲間を識別し,異性を探すために必要な情報である.これらの情報を処理する部位が中枢神経系であるから,感覚器と中枢神経系とは一体不可分のものである.中枢神経系内での情報処理にはいろいろな段階があり,個体の生命維持に直接必要な処理は主に延髄以下で処理時間の短かい反射として現われる.脳の前端,すなわち終脳に近づくにつれて処理は複雑になり,取捨選択や修飾が行われる.哺乳類になると新皮質が発展するので,ここでの情報処理はさらに高度化して“考える”機能を持つようになり,人間では創造する事が出来るようになった.
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