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はじめに
身体障害の分野においては,ADL評価は,OTの特許のごとく用いられることが多いが,精神科におけるこの評価は,必ずしも評判がよいとは言いがたい.
これはいかなる理由によるものであろうか.ADLの自立ができるか否かは,身体的問題のみであろうか,そうではたいはずだ.
精神科においては,現実認識を育てるという意味において,社会復帰には欠くべからざる能力のはずである.
だが,ADL評価が精神科の中では,必ずしも評価され,有効に利用されていないのは,精神科が歩んできた過去の経過に原因があるようだ.
ここで,精神医療を振り返ってみると,昭和30年代には,「生活療法」が最も注目を浴びた.小林八郎らが提唱した生活指導要綱には,細則が設けられ,段階づけされた患者への細かい働きかけ方が決められている.これは俗に,「しつけ療法」と言われ,患者を治療者の期待通りの人にしようという傾向から,治療とは言いがたい面があった.
生活療法の三本柱の一つであった作業療法も,療法の名のもとに,患者を使役,収奪,管理して,患者の人権を侵害しているなどの問題が提起され,作業療法点数化に当っては,批判の的となった.現在のADL評価は,このような生活療法から想起されるイメージとだぶらせる人が多い.
作業療法の推移について,ひとこと触れておくと,作業療法は,作業療法士の手によって,生活療法の一環としてではなく,精神力道的・精神分析的,あるいは治療共同体的立場に立つ作業療法として行われるに至っている.しかし,それでも,精神医療においての作業療法というと,内職作業,農耕,畜産の類に代表されるイメージを想起させるという現状は否めない.
もう一本の柱であるレクリエーションに関しては,さして問題を提起されることなく,おおらかに行われている.
さて,このような状況の中で,過去の生活指導,しつけ療法と切り離して,ADL評価の必要性を再度考え直してみたい.
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